救急隊員として十数年、
「1分1秒でも早く現場へ向かうことが使命」――
そう信じて、ひたすら走り続けてきました。
けれど、現場で出会うすべての人をスピードだけで救えるわけではありませんでした。
目の前にいる傷病者が、本当に命の危機にあるのか。
それとも、誰かに助けを求める「心の叫び」なのか。
私は、そんな戸惑いを、幾度となく味わってきました。
「本当に救急車が必要だったのか」──現場で揺れた想い
現場に到着すると、歩いて迎えに来てくれる傷病者。
症状も軽く、元気そうな様子。
思わず心の中でよぎる疑問──
「本当に救急要請が必要だったのだろうか」。
けれど、よく話を聞いてみると、
- 「一人で不安だった」
- 「誰にも相談できなかった」
そんな見えない孤独や不安が、そこにはありました。
現場に立って初めて、救急の『本当の役割』を考えるようになったのです。
タクシー代わり?甘え?──表面だけではわからない救急の現実
「救急車をタクシー代わりに使うな」
そう言いたくなる気持ちも、確かにありました。
しかし、救急要請の背景には命の危険とは別の誰かに支えてほしいという切実な想いがあることも知りました。
表面だけを見て判断するのはあまりにも早計であり、救急隊員としての責任を放棄することだと気づかされたのです。
あえて「丁寧に寄り添う」ことを選んだ理由
「一刻も早く次の要請に備えろ」
そんな空気の中、私は時にあえてゆっくりと傷病者に向き合うことを選びました。
焦る心を抑え、傷病者の話にじっくりと耳を傾ける。
そうすることで相手の表情が和らぎ、信頼関係が生まれる瞬間を何度も経験しました。
効率を求めることだけが、救急の正解ではないと知った瞬間でもありました。
「聞く力」が、不安を救う力になる
若い頃の私は、症状を聞き取ったらすぐに次のステップへ進むことが正しいと思っていました。
しかし、ベテラン隊員から教わった一言が今も心に残っています。
「相手が話し終えるまで、絶対に遮らないこと。」
その教えを胸に、ただ静かに話を聞き受け止めるだけで、
「ありがとう、安心しました」
と言ってもらえることがありました。
ときには、“聞くこと”こそが最大の救急行為になることもあるのです。
目の前の命だけではない。「心」にも手を伸ばしたかった
目の前の傷病者に全力で向き合いながら、頭の片隅では「今、近くで重症事案が発生しているかもしれない」という焦りもありました。
それでも、私は目の前の人の『心』にも手を伸ばしたいと思っていました。
救急とは、命を守るだけではない。
不安や孤独を和らげることも、救急の大切な役割だと経験を重ねるうちに感じるようになったのです。
【まとめ】救急現場で見つけた、本当に守るべきもの
救急現場には、教科書には載っていない”グレーゾーン“がたくさん存在します。
「命を救うために急げ」
それは救急隊員として、常に胸に刻んでいた信念です。
けれど、心を救うために立ち止まることも、決して間違いではなかったと今なら心から言えます。
矛盾と葛藤の中で選び取った『寄り添う救急』。
それが私が元救急隊員として身をもって学んだ、救急の本質です。
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