元救急隊員が明かす『搬送せざるを得ない』救急現場の苦悩と葛藤

救急車は、本来『生命の危機に瀕している人を、迅速かつ安全に医療機関へ搬送する』ためのものです。

しかし、現場に出ると救急車の利用に疑問を感じるケースは決して少なくありません。

それでも私たち救急隊員は、多くの場面で『搬送せざるを得ない』決断をしてきました。

なぜなら、搬送しなかった場合に起こりうるリスクや社会的な背景が、あまりにも大きいからです。

本記事では、元救急隊員として実際に経験してきた『搬送せざるを得ない』現場のリアルをお伝えします。

目次

1. 明らかに軽症でも、搬送せざるを得ない現場

救急活動の中で、明らかに命に関わる状況ではない、つまり『軽症』と判断できる傷病者と対面することは珍しくありません。

それでも私たちが搬送に踏み切るのには、以下のような理由があるのです。

■ 家族や周囲の強い希望

「とにかく病院に連れて行ってください」
「もしものことがあったら困るので、搬送してください」

こうした強い要望を受けた際、たとえ傷病者が「大したことない」と話していても救急隊員だけの判断で搬送を断るのは非常に難しいのが現実です。

■ 呼んだ以上は「せっかくだから行きたい」という心理

「ここまで来てもらったから、病院まで行っておこうかな」

そんな軽い気持ちで搬送を希望されることもあります。

本音を言えば「救急車で行く必要はない」と思っていても、本人が病院搬送を望めばそれを尊重せざるを得ません。

■ “帰れない”という社会的事情

傷病者が本来であれば自宅で様子を見たり、自力で通院することが可能な状態だったとしても現実にはそうできないケースが多くあります。

  • 夜間で公共交通機関が動いていない
  • 金銭的な理由でタクシーが使えない

そんな状況で、「救急車を使うしかない」と訴える傷病者や家族は少なくありません。

これは、本人の意識や判断力の問題ではなく、社会的な支援体制や生活環境の問題とも言えるでしょう。

救急車が『移動手段の最終手段』として使われる背景には、現代社会が抱える課題が浮き彫りになっています。

2. 「搬送しない」リスクと苦情の恐怖

私たち救急隊員には、「搬送しない」という選択に伴う非常に重いリスクがのしかかっています。

■ 見逃してはいけない『隠れた重症』

見た目には軽症に見えても、実際には重大な疾患が隠れている可能性もあります。

その場で搬送を見送った結果、容態が急変し後から「なぜ搬送しなかったのか」と責任を問われることもあるのです。

■ 苦情とクレームの現実

態度が冷たかった
搬送を断られたのが納得いかない
家族に何かあったらどうしてくれるんだ

こうしたクレームが寄せられることも珍しくありません。

現場でどれだけ丁寧に説明しても、納得してもらえないことは多々あります。

その結果、苦情を恐れて「搬送しておいた方が無難」と判断せざるを得なくなるのです。

3. 病院側の反応:「なんで救急車で来たの?」

救急搬送を受け入れる病院の看護師や医師が、救急隊員に投げかける言葉の中で、もっともよく聞くのがこれです。

「それ、救急車で来る必要ありましたか?」

医療機関としては、本当に重症の患者への対応を優先したいという思いがあるのは当然です。

しかし、私たち救急隊員もまた「できれば搬送したくなかった」という本音を抱えているのが現実です。

現場では、『搬送しない』ことのリスクと、『搬送してしまう』ことの葛藤その間で常に板挟みになっているのです。

4. 救急隊員のジレンマとこれから

「救急車は、本当に必要なときに利用してほしい」

これはすべての救急隊員が共通して抱く願いです。

しかし実際の現場では、傷病者や家族の不安、社会的な事情、クレームリスク、隠れた重症の可能性など、複雑な要因が重なり、搬送せざるを得ない状況が多々存在しています。

適正利用の啓発が不可欠

救急車は誰でも無料で利用できるため、心理的にもハードルが低いのが現状です。

しかし、救急車は「無限」ではありません。

限られた資源を本当に必要としている人に届けるためには、社会全体で「適正利用」の意識を高めていく必要があります。

まとめ:搬送とは、命をつなぐ『選択』である

救急隊員の役割は、「とにかく病院へ運ぶこと」ではありません。

傷病者の状態や社会的背景を含め総合的に判断し、『必要な人を、必要な医療へ、必要な手段でつなぐ』ことです。

それでも、現実にはさまざまな事情により『搬送せざるを得ない』場面が多く存在しています。

元救急隊員として伝えたいのは、救急車は『いつでも使える便利な乗り物』ではなく、『命を守るための緊急手段』だということ。

この意識が一人でも多くの人に広まり、救急車が本当に必要な場面で使われるようになることを心から願っています。

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