救急隊員にとって患者情報を正確に整理し、医療機関へ的確に伝達することは、命を守るうえで欠かせない重要なスキルです。
しかし私自身、情報整理が苦手で、どの情報を優先的に伝えればいいのか悩んだことが何度もありました。
特に、子どもが患者のケースでは、言葉で症状を伝えられないため、対応に戸惑うことも…。
そこで本記事では、私がどのように苦手を克服し、実際の現場で役立った情報整理のコツや子ども対応のポイントを紹介します。
1. 情報整理の重要性と5W1Hの活用

救急隊員として現場で行う情報整理は、患者の状態を把握し、医療機関へ正確に伝えるために非常に重要です。
この情報が遅れたり、誤った形で伝わると、患者の生命にかかわることもあります。
1.1. 5W1Hを意識する

先輩から「5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)」を意識しろとよく言われました。
以下の点を徹底することで、情報整理の精度を高めました。
- When(いつ):発症や負傷の時間
- Where(どこで):事故の場所、現場の状況
- Who(誰が):患者の年齢、性別、既往歴
- What(何を):症状や状況(痛みの部位、意識の有無など)
- Why(なぜ):発症や負傷の原因(事故、発作、転倒など)
- How(どのように):現場での処置や対応
これらの情報をしっかり整理しどこを重点的に伝えるべきかを明確にすることで、より迅速かつ正確な対応が可能になります。
1.2. SAMPLEの重要性

救急現場では、患者の状態を正確に把握し、迅速かつ適切な処置を行うために必要な情報を収集することが非常に重要です。そのために活用されるのが「SAMPLE」という情報収集のフレームワークです。
SAMPLEは、次の情報を整理するための指針となります。
- S (Signs/Symptoms): 自他覚症状
患者の現在の症状や訴え、体の異常な兆候を把握します。これには痛みの部位や強さ、発症の経緯が含まれます。 - A (Allergies): アレルギー歴
患者が過去に持っているアレルギー反応や特定の薬剤に対する反応を確認します。アレルギー反応は治療方法に影響を与える可能性があります。 - M (Medications): 薬物
現在服用している薬や過去に服用した薬の情報を収集します。これにより、症状や治療方法に関連する可能性のある薬剤情報を確認できます。 - P (Past medical history): 病歴
患者が過去に経験した病気や手術歴などの医療情報を確認し、現在の症状と関連性があるかを判断します。 - L (Last meal): 最終飲食
最後に食べたものや飲んだもの、または薬の摂取タイミングを確認します。特に急性の病状では、これが治療のタイミングに影響を与えることがあります。 - E (Event): 現在の病気や怪我に至った経緯
発症や負傷の原因となる出来事を尋ね、症状の始まりから現在に至るまでの過程を明確にします。
SAMPLEを意識して情報を整理することで、患者の状態を迅速に把握し、適切な処置を行うための土台を作ることができます。
SAMPLEを意識的に活用することで、情報の抜け漏れを防ぎ、より効率的で正確な対応ができます。
1.3. 不要な情報の取捨選択

現場で得られる情報は非常に多岐にわたります。
特に患者から直接得られる情報は、必ずしもすべてが救急搬送に必要な情報とは限りません。
現場で迅速かつ効率的に対応するためには、情報を取捨選択し、必要な情報だけを整理して伝えることが求められます。
例えば、患者に「今の症状は何ですか?」と尋ねた際、患者が必ずしも現在の症状に直結しない話をすることがあります。

患者が昨日からの行動や過去に行ったことを順を追って話し、その後に現在の症状を説明する場合もあります。
このように、情報が順を追って提供されると、現在の状況に関する核心部分が遅れて伝わることになり、混乱を招く可能性があります。
また、症状が治まっているのに不安から救急車を呼ぶ場合もあります。
このようなケースでは、患者の不安感や症状の有無が重要な情報となるため、慎重に状況を確認し、対応を決める必要があります。
不要な情報を切り捨てることも重要ですが、隠れた重要な情報が含まれている場合があるため、すべての発言に注意を払い、背景や文脈を考慮しながら情報を整理することが大切です。
現場で情報整理を行う際には、冷静さと経験が必要となり、メモを取りながら漏れなく整理することを心掛けました。
2. 子ども対応の難しさと克服法

子どもが患者の場合、大人と比べて症状を正確に伝えることが難しく、観察力とコミュニケーションの工夫が求められます。
さらに、親は必死で対応するため、冷静に必要な情報を得ることが難しくなることがあります。
そのため、親からの情報を適切に引き出すことが、子どもへの適切な対応につながります。
2.1. 親の不安を和らげる

私も親として、子どもが急病になるとどれほど不安かを実感しました。
そのため親が冷静に情報提供できるよう、まずは親の不安を和らげることが大切です。
- 落ち着いた声で話す:焦らず、安心感を与えるように心がける
- 親の話をしっかり聞く:焦りから誤った情報が出てくることもあるので、質問をしっかりと明確に行う
普段の親子関係において、親は子どもの顔色や表情をよく見ているため、その情報は非常に信頼性が高いです。
しかし、親自身が冷静でなければ、その情報を十分に引き出すことは難しくなります。
親を落ち着かせ、的確に質問を投げかけることが必要です。
2.2. 子どもを観察する

子どもは言葉で症状を表現することができないため、表情や体の動き、反応を観察することが大切です。
例えば、顔色や目の動き、手足の使い方をチェックすることで、病態を推測できます。
- 目の動きや顔色の変化をチェック:これが状態を把握するための重要な手がかりになります。
- 反応の程度:意識レベルや痛みの強さを推測
さらに、親が日常的に子どもを観察している情報も非常に有用です。
普段の顔色や表情と比べてどうかを聞き、変化に気づくことが重要です。
これにより、症状の進行や変化を迅速に捉えることができます。
3. 子どもの対応で大切なこと

子どもを患者として対応する際には、いくつかの重要なポイントがあります。
特に、親の感情に配慮することが適切な対応に繋がります。
緊急時には親も不安や焦りを感じることが多いため、冷静な対応が求められます。
また、状況を把握するためには親から正確な情報を得ることが不可欠です。
そのためには、親の気持ちを落ち着け、安心させる工夫が必要です。
3.1 親を冷静にさせる対応

✅ 親の冷静さが適切な対応に直結
子どもが患者となる場面では、親の感情に配慮することが非常に重要 です。
親が焦っていると、正確な情報を得ることが難しくなり、適切な対応が遅れる こともあります。
そのため、まず親が冷静になれるように声をかけることが大切です。
具体的な声かけの例として
- 「大丈夫ですよ、私たちがしっかり対応します」→ 安心感を与える
- 「今、どんな症状がありますか?」 →具体的な情報を落ち着いて聞き出す
親が焦らないように、穏やかなトーン で話しかけることが、確実な情報収集につながります。
3.2 緊急時の対応と状況説明
🚑 緊急時こそ、冷静に対応することが求められる!
急を要する場合でも、必要最低限の情報を素早く聞き出し親の不安を和らげることが重要です。
効果的な声掛け例として
- 「今、急いで病院に向かっていますので、お子さんの詳しい情報を確認させてください」→焦る親を落ち着かせ、的確な情報を得る
- 「現在、このような処置を行っています」→状況説明を行い、親の不安を軽減する
また、家族への状況説明を適切に行い搬送中に得た情報を医療機関へ正確に伝えることで、搬送後の治療がスムーズに進み、親の不安も軽減されます。
4. 苦手を克服した実践例
実際に私がどのように苦手を克服したかというと、経験を重ねる中で「焦らずに一つ一つ確認していくこと」を意識しました。
子どもが関わるケースでは、親の反応に気を配りつつ、冷静に必要な情報を引き出し、伝えることができるようになりました。
- 冷静に行動すること:自分自身の焦りを抑え、状況をしっかり把握
- 周囲に助けを求める:場合によっては、他の隊員と情報を共有し状況を整理する
5. 実践していた方策と改善の過程
救急現場では、限られた時間内で情報を的確に伝達することが求められます。
特に、医療機関への情報伝達は患者の今後の対応に大きな影響を与えるため非常に重要な業務の一つです。
そこで私は、実際に業務を行う中で 様々な方策を試し、改善を重ねてきました。
ここでは、私が実践していたメモの取り方や伝達方法について詳しくご紹介し、その改善の過程を振り返りながら、どのように効率的な情報伝達を目指してきたのかを説明します。
5.1. メモの取り方✍️
🔹 箇条書きで整理し、端的な言葉を意識する
私が実践していた方策として、メモの取り方にこだわり、箇条書きや端的な言葉で簡潔に整理することを意識していました。
❌ 長々と文章で書く → ✅ 必要な情報をシンプルにまとめる
こうすることで、後の情報伝達がスムーズになります。
💡 メモを活用し、伝達内容を整理する
そのメモを基に 伝達内容を整理し、分かりやすい文章として組み立てるよう努めました。
🛠 改善の過程
🚑 初期段階
📌 紙に書き起こしてから医療機関に連絡
⬇️
搬送後や消防署に戻った際に振り返り、
「どのように伝達すればよかったか?」
「より分かりやすいメモの取り方は?」
といった点を考え、改善を重ねる。
👥 他の隊員の方法を参考にする
一緒に活動する隊員の連絡方法を学びながら、自分なりの伝達スタイルを確立。
こうした経験を積む中で、
✅ メモを活用して情報を整理し、頭の中で文章を組み立てるスキル を向上させ、
スムーズな情報伝達ができるようになりました。
5.2. 医療機関への伝達
救急現場で収集した情報を医療機関に伝達する際、ただ単に聞いた情報を羅列するだけでは十分な対応を得ることができません。
正確で効率的な伝達には、情報を整理し適切な順序で構成することが必要です。
特に5W1HやSAMPLEの情報を使い、重要な点を絞り込んで伝えることが大切です。
5.2.1 伝達の際の基本的な構成
まず伝達する情報は、患者の基本情報、症状の経過、既往歴や薬歴などの順で整理し、伝えます。
伝達がスムーズに進むよう、情報は分かりやすくまとめることが重要です。
例えば、次のような流れで伝えると、医療機関側も患者の状態をすぐに把握できます。
伝達例:
「52歳の男性が頭痛を訴えて救急要請されています。患者は自宅で身支度をしていたところ、要請の10分前から後頭部に激しい頭痛を感じ始めました。頭痛の強さは8/10(10段階評価)で、吐き気や嘔吐の症状はありません。既往歴として高血圧があり、○○クリニックで通院中ですが、最近の血圧測定結果は不明です。また、現在服用中の薬は(例:ノルバスク)です。」
5.2.2 重要なポイントを強調する
このように、伝達内容を具体的に構成する際に、以下の点を強調します:
- 発症の時間: 症状が発生した時間やその経過は非常に重要です。特に、発症からの時間が短い場合、急性の症状や重大な病態(例:脳卒中や心筋梗塞)である可能性が高いため、急ぐべきです。
- 症状の強さや性質: 頭痛や痛みの強さ、痛む部位、痛みの種類(鋭い、鈍い、圧迫感など)を具体的に伝えることが、適切な対応を引き出すために重要です。
- 既往症や服薬歴: 高血圧や糖尿病、過去の病歴などは、現在の症状に影響を与える可能性があるため、必ず伝えます。特に、薬の名前や服用歴も重要です。
5.2.3 伝達時の工夫
ただ情報を羅列するのではなく、重要なポイントを簡潔にまとめ、わかりやすく伝える工夫が必要です。
以下は、情報整理を意識した伝達方法のポイントです。
- 簡潔にまとめる: 複雑な情報を短く分かりやすくまとめます。伝達する内容を一度整理し、重要な項目を絞り込んで伝えましょう。
- 優先順位をつける: 例えば、発症の時間や症状の強さ、過去の病歴は優先的に伝えるべきです。その後、SAMPLEの情報や追加情報を補足的に伝えます。
- 混乱を避ける: 感情的にならず、冷静に情報を伝えることが大切です。焦らずに、重要な情報を順番に伝え、医療機関側が迅速に対応できるようにします。
5.2.4 伝達後の確認
伝達が完了した後、医療機関からのフィードバックや確認も重要です。
特に「患者の現在の状態に関して、何か追加で報告すべき情報がないか?」という質問をし、現場での情報の不備がないか再確認しましょう。
これにより、さらなる情報漏れや誤解を防ぐことができます。
【まとめ】
情報整理や子ども対応は、救急隊員にとって避けては通れない重要なスキルです。
私が経験した苦手意識の克服の過程は、実際に現場で何度も試行錯誤を繰り返し、少しずつ改善してきた結果です。
特に、5W1HやSAMPLEといったフレームワークを活用することで、情報整理が効率的になり、迅速かつ正確な対応が可能になりました。
また、子どもの患者に対しては、親の不安を和らげることが最も大切であり、そのために冷静な対応と観察力が必要です。
親と子どもの状態を的確に把握し、医療機関への情報伝達を適切に行うことで、救急隊員としての役割を果たすことができます。
私の経験が、同じように苦手を感じている方々に少しでも役立つことを願っています。
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