救急隊員としてのキャリアを通じて、私が何度も感じたのは「接遇の重要性」です。
救急隊員と聞くと、まず真っ先に思い浮かぶのは、急患への素早い対応や、適切な処置、専門知識を活かした救命活動だと思います。
もちろん、これらは救急業務において欠かせないものです。
しかし、実務の中で最も重要だと感じたのは、実は「接遇」でした。
接遇とは?
接遇とは、簡単に言えば**「おもてなしの心」です。
救急車が駆けつける現場では、患者やその家族は、誰しもが不安や恐怖に包まれています。
そんな中で、私たちが患者やその周りの方々にどのように接するかが、彼らの心理的な安心感を大きく左右します。
また、救急車を呼んだ際に「軽症かもしれない」「こんなことで呼んでしまって申し訳ない」と恐縮している人に対しても、接遇は欠かせません。
こうした患者や家族は、自己判断で救急を呼んだことに負い目を感じることが多く、こちらの接遇が適切でないと、不必要なトラブルや誤解を生む可能性があります。
接遇がトラブルを避ける鍵に
救急隊員として、軽症だと思われる患者に対しても、常に丁寧な対応を心掛けることが大切です。
患者が「呼んでしまって申し訳ない」と思っているとき、私たちが不親切な態度をとれば、彼らはさらに申し訳なさを感じ、時には不満や怒りを抱くことすらあります。
しかし、ここで温かく寄り添い励ましの言葉や安心感を与えることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
例えば「大事に至らなくて本当に良かったです。救急車を呼んでいただいて正解でしたよ」といった一言が、相手の不安を和らげ、信頼関係を築く手助けになります。
結果として、職務も円滑に進み、救急現場全体がスムーズに機能するのです。
接遇の重要性とその実践
私は元救急隊員として、隊長、隊員、機関員のすべての役割をこなしてきましたが、どの役割でも接遇は非常に重要でした。
患者やその家族、救急車を要請した人に対してだけでなく、搬送先の医療機関に連絡する際や申し送り時に対する医師や看護師に対しても、接遇の重要性を認識しました。
救急活動時には欠かすことのできないスキルと言っても過言ではありません。
例えば、私は機関員として活動していた際、店の前に救急車を止めることもありました。
その時には必ず店の方に一言声をかけることを心掛けていました。
小さな配慮ですが、こうした行動が現場のスムーズな進行を助け地域との信頼関係を築くきっかけにもなりました。
また、現場で手伝ってくれた人や通報者には必ずお礼を言うことを忘れないようにしていました。
感謝の言葉一つで支援者との関係が良くなり、次回も協力してもらいやすくなるのです。
隊長を務めていた時には、患者さんに対してまず自分の名前を名乗って接することを徹底していました。
初対面での緊張感を和らげるとともに、自分がどのような立場でここにいるのかを明確にすることで、患者さんの不安を少しでも軽減することができました。
このような小さな接遇の積み重ねが、現場での信頼感を高め患者やその家族の安心感に繋がります。
さらに、家族への配慮も忘れずに行いました。
家族は冷静ではないことがほとんどのため、持ち物の確認や家族からの情報を得る際には、患者から少し離れて話を聞くことを意識していました。
家族の不安を軽減しつつ、適切な情報を得ることで患者のケアに役立てることができました。
このような接遇の工夫が、現場での信頼関係を築く要因となります。
相手の立場に立った考えができるかどうかが鍵です。
疲労が増し、イライラする気持ちが募ったとしても接遇をないがしろにしてはいけません。
むしろ、そういったときこそ接遇を重視しなければならないのです。
得てして、そういう場面で接遇を無視したときに限って、トラブルを招く恐れがあります。
すべての人に対して同じように接することが重要ですが、極端にへりくだる必要はありません。
救急車の適正利用と相談窓口
ただし、どんな場面でも救急車を呼ぶことが適切かというと、それは必ずしも正解ではありません。
軽度の症状で救急車を利用することが増えたことで、本当に緊急を要する患者に対応するリソースが不足してしまうケースも少なくありません。
そのため、救急車の適正利用を意識し、どのタイミングで呼ぶべきかを判断することが大切です。
現在では、多くの自治体が「#7119」などの救急相談センターを設けており、緊急性があるかどうかを判断できない場合には、こうした窓口を活用することが推奨されています。
救急車が必要かどうか迷った場合は、まず相談センターに連絡することで、適切なアドバイスを受けることができ、結果的に救急車の適正利用にも繋がります。
具体的な接遇のポイント
接遇には重要な3つのポイントがあります。
これらをしっかりと押さえることで、現場での対応が格段に良くなります。
落ち着いた声掛けと表情
救急車の到着を待つ間、患者や家族の心境は不安でいっぱいです。
だからこそ、救急隊員が落ち着いた声で冷静に対応することが極めて重要です。
焦った声や険しい表情は、状況を深刻に感じさせ、相手の不安を増幅させる原因となります。
逆に、穏やかな声と柔らかい表情は、瞬時に安心感を与え、不安を和らげる力があります。
状況説明の明確さ
救急現場では迅速な判断が求められますが、その中でも患者やその家族に対して状況を説明することが欠かせません。
「今どんな処置をしているのか」「これからどこに搬送するのか」といった情報を丁寧に伝えることで、彼らの不安を軽減し、信頼関係を築くことができます。
情報提供は、安心感を生む大切な接遇の一部です。
相手の立場に立った行動
患者やその家族にとって、救急車の到着は非常に特別な経験です。
どれほど日常的な作業でも、相手の立場に立った対応が求められます。
例えば、担架に載せる際の声掛けや、動きに対する配慮など、細かな部分への気配りが接遇の質を大きく左右します。
相手がどう感じるかを常に意識し、適切に対応することが信頼を生む鍵となります。
接遇が生む信頼
救急現場は、時間との闘いであると同時に、信頼関係を築く場でもあります。
患者が安心し、救急隊員に身を任せられるかどうかは、その瞬間の接遇にかかっています。
接遇がしっかりしていると処置への協力もスムーズになり、結果的に救命率を高めることにも繋がるのです。
最後に
救急車を呼ぶような緊急時には、誰もがパニック状態に陥りがちです。
そんな中で、いかに患者やその周囲の人々に寄り添い、安心を与えることができるか。
それこそが、救急隊員としての最大の使命であり、接遇が最も重要なスキルだと確信しています。
命を救うために必要な技術や知識はもちろん重要ですが、それを最大限に活かすためには人としての温かさが欠かせないのです。
そして、救急車の適正利用に対する理解を広めることも、私たちの役割の一つだと感じています。
救急車を必要とする場面での迅速な対応と、必要なリソースを確保するために救急相談窓口の利用を推奨することも大切です。
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